高齢社会に新しい支え合いシステム 障害者と暮らす複合型の居住
若者世代と趣味共有し育児も/産業型福祉「葉っぱビジネス」
高齢者世代だけではなく、全ての世代が集い、年齢を重ねられる「エイジ・フレンドリー・コミュニティー」と呼ばれる新しい支え合いシステムが注目されている。高齢者と障害者が一緒に暮らすスイスの多世代複合型居住コミュニティー、高齢者と若者世代が趣味を共有したり育児をしたりするドイツの集合住宅、「葉っぱビジネス」で知られる徳島県上勝(かみかつ)町…。文化人類学の視点から高齢期の住まい方について研究する国立民族学博物館(大阪府吹田市)の鈴木七美教授に聞いた。
多世代が共生
スイス・ベルン市郊外にある「リュティフーベルバート」。1991年に開設されたコミュニティーだ。高齢者ホーム、障害者向けの住居のほか、子供のための学校「シュタイナースクール」、ホテル、コンサートホール、カフェテリアなどが計画的に配置されている。
学校や商業施設には外部からも多くの人が訪れるため、住人との間でコミュニケーションが生まれる。昨年8月、鈴木教授が訪れた際も、いくつもそんな光景を目にした。「住人も訪問者も日なたぼっこをしたり、散歩をしたり。広場やベンチもあり、自然と交流できる共有の居場所もある。ここが支え合いシステムの重要な要素となっている」
もう一つ、鈴木教授が注目しているのがドイツ・ハイデルベルク市の住宅プロジェクト「プリスマ」。「高齢者が希望して住む町」を目指し、2009年末、完成した。
この町の特徴は高齢者と若い世代の共生が図られていること。ハイデルベルクは大学の町であり、若者も多く住んでいるが、住居費が高い。「プリスマ」では、資金を貸し付けるなどの支援策を用意し、若い世代を呼び込んだ。分譲、賃貸含めて25戸の住宅のほか、会議室やコミュニティーガーデン、屋上テラスなども備えられている。そのため、さまざまな世代が余暇活動を共にしたり、高齢者が若い世代の育児の手助けをしたりする、といった交流が生まれている。
「従来の福祉は、ともすれば障害者や高齢者を『支えられる人』として、主に支援の拡充と分配が進められてきた。しかし、高齢期が長期化し、少子化で『支え手』とされる世代が減少する中、多世代が地域の歴史や風習といった文化的資源を共有し、支え合う住まい方への関心が欧米を中心に高まっている」と鈴木教授は話す。
紅葉、松葉…
日本の事例として、海外からの注目度も高いのが、「葉っぱビジネス」を成功させた徳島県上勝町の「産業型福祉」の実践という。
紅葉や松葉などの葉っぱを、料理に彩りを添えるつまものとして商品化した葉っぱビジネス。昭和61年に始まり、平成3年には第三セクターを創立。町や農協が協力し、高齢者に使えるコンピューターを開発し、高齢者の交通手段としての有償ボランティアタクシーの運用も始めた。町内外の若い世代も加わり、東京のNPOとも連携、町の資源である木材を生かした住居も準備し、受け入れ態勢の整備で若者も住むようになった。
鈴木教授は「高齢期が長期化する時代においては、いかに住まうかが鍵。住まい方によって、介護にかかる人的、経済的負担も変わってくる。高齢者にとっての幸せな暮らしは若者をはじめ、あらゆる人を引きつけるのではないでしょうか」と指摘している。